夜になるまえに

本の話をするところ。

みんなひとりぼっち「赤い魚の夫婦」

 ネッテルの文章は静かだ。出てくる人物たちも静かだ。声を荒げる、暴れる、そういうことを、彼らはしない。けれども彼らは、彼らが抱えている孤独は、たぶん地団駄を踏んで泣きわめく、といった、激しい動作で訴えても納得がいくくらいに、深い。孤独。ネッテルの小説には、それがついてまわっているように、私には思える。わかり合っていると思っていた近しい人とどうしても一緒にいられないことを思い知らされてしまう、そんな孤独。自分がこの世にたった一つの形をした自分自身としてしか在れないと気づかされてしまう、そんな孤独。孤独を否応なく纏った人間を、ネッテルは人間以外の生物を使って描く。十分なスペースを与えられ、争わずに生きられるはずだった二匹の魚や、つがいと引き離された蛇や、はたまた人間の体に巣くった菌を、ネッテルが描くそれらのものを見ていて、それらのものに託された人間たちの、時に恐ろしいほどの孤独を、私は理解する。私たちはみんなひとりぼっちであることを。
 ここに収められた物語は、ひとりぼっちである人間が、それでも他者と結びえる絆の可能性といったものを、つまりは希望めいたものを、誠実にも排除している。私たちはみんなひとりぼっち。容赦はないが、紛れもない真実だ。

 

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