夜になるまえに

本の話をするところ。

持っててよかった絶版本を紹介してみる。~海外文学篇~

 本を愛する人は決して油断してはいけない。気になる本はとにかく気になった時に買うのだ。…と前回書いた。自分の本棚を見て、あれもこれももう新しい本では手に入らないのだなあ…と思うと感慨深いものがある(今部屋の整理をしているのである)。そしてできるだけ思い入れのある本は手放すまいと決意するのだった。


 というわけで、前回に引き続き持っててよかった絶版本を紹介してみる。なお、筆者の気分により今回は海外文学を取り上げる。

 

1.「キス」 キャスリン・ハリソン著/,岩本 正恵訳、新潮社

 

 若くして子をもうけ、離婚した夫婦。娘は父を知らずに育ち、父は別の町で新しい家庭を築いていた。娘が成長した後、二人は再会し、そして恐ろしい関係に陥っていく。

 これは著者キャスリン・ハリソンが自らの体験を描いたノンフィクションであるーーという事実だけでも興味を惹くに足るかもしれない。しかし真に特筆すべきは、ハリソンが、愛してくれない母、抑圧的な祖母、歪な関係に陥るに至る父を、そしてそんな家族の中で苦しむ自分自身を、冷静で、詩的でさえある文章で書ききったことであろう。信頼できる、安らげる存在であるべき「家族」。しかし一歩間違えれば、家族を求めた先には地獄が待っている。ハリソンは地獄を見た。そしてその地獄をまっすぐに見つめて、この本を書いた。

 

2.「リービング・ラスベガスジョン・オブライエン 著/,小林 理子 訳、角川書店

 

 「リービング・ラスベガス」と聞いて多くの人が思い出すのはニコラス・ケイジ主演の映画版の方かもしれない。しかし筆者は映画版の原作に当たる本書が、小説としてとても好きだ。何も望みの見えないような世界で生きているサラという女性の日常に転がり込んできたアルコール中毒のベン。彼が酒を飲み、飲み続けるのを、サラはただ見ている。見ていることしかできない。二人の関係は優しいのに、世界は二人に優しくはない。どん底に生きる二人の傷だらけのラブストーリー。

 

3.「異形の愛」    キャサリン・ダン 著/柳下 毅一郎訳、ペヨトル工房

 

 サーカス団の団長が、妊娠中の妻に毒薬を飲ませて見世物用のフリークスを誕生させる…というあらすじの最初の一行だけを読んでも「なんですって」となる本書だが、なんと1989年の全米図書賞の最終候補にもなっている。「見世物」となるべく生まれた子どもたちの愛憎のドラマがこれでもかと繰り広げられる「家族の物語」であり、また、当たり前のように世のスタンダードとされる「普通」「正常」を揺るがす物語でもある。以下の引用部分を読んでもらえればそのスピリットがわかるだろうか。

「(前略)あなたはきっと、これまで百万回も普通になりたいって願ったでしょ?」

「いいえ」

「え?」

「わたしは頭がふたつ欲しかった。それとも透明になりたかった。足のかわりに魚の尾がついてればって思った。もっとずっと特別なものになりたかった」(p.50)

 

 本書は2017年、河出書房新社より復刊されたが、残念なことにそちらの版も現在品切れ状態のようである。ちなみに、帯にもある通り、ティム・バートンが一時期映画化に興味を示していたようだが、その後動きはない様子。

 

 というわけで、持っててよかった絶版本紹介でした。本棚の絶版本と目が合ってしまったら、またこのテーマで書くこともあると思います。ではまた。