夜になるまえに

本の話をするところ。

お気に入りの白水Uブックスを五冊挙げてみる

皆さんは白水Uブックスがお好きだろうか。私は大好きである。念のために解説すると白水Uブックスとは、白水社が出している新書サイズのシリーズで、岸本佐知子著「気になる部分」のようなエッセイなどもあるが、主に海外文学を出している。あのラインナップ、手ごろな値段、海外文学を新書サイズで出版するというあまり見かけない試み。好きだ…そんなわけで、今回は白水Uブックスからお気に入りを五冊紹介してみようと思う。

 

やんごとなき読者

アラン・ベネット (著),市川 恵里 (訳)

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 英国女王が読書にハマってしまい、それをよく思わない周りの人々により妨害工作を受ける。読書により想像力を養い他者を思いやることを知った女王が最後に選ぶのは…このラストが好き。本を愛する人にぜひ読んでもらいたい、シニカルで痛快な一冊。

 アラン・ベネットの翻訳は今のところこれ一冊だが、マギー・スミス主演の映画「ミス・シェパードをお手本に」は、ベネットの小説が原作である。近所で車中生活を送る不思議な女性ミス・シェパードに興味を持ったベネットが自宅のドライヴウェイに招き入れたところ、十五年も一種の共同生活が続いたという実話(!)を基にしたもの。この短編”Lady in the van”をタイトルとした短編集も出ている。

  ミス・シェパードとの思い出を語るベネットのインタビューはこちらから読める↓

www.npr.org

カモメに飛ぶことを教えた猫

ルイス・セプルベダ(著),河野万里子(訳)

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 瀕死のカモメが産み落とした卵を守り、ひな鳥に愛情を注いで育ててきた猫のゾルバ。しかしその前に「いかにしてひなに飛び方を教えるか」という難問が立ちはだかる。飛べるカモメと飛べない猫、決定的な種族の違いを超えた一羽と一匹の結びつきが大の大人をも泣かせる名作。

 著者ルイス・セプルベダはチリに生まれ、初めての本を十六歳で出版、クーデターが起こった時には政治活動のため逮捕・投獄され、後に母国を出て南米を転々とし、更にドイツに行きハンブルグに暮らした。「カモメに飛ぶことを教えた猫」の舞台もハンブルグである。その後スペインのアストゥリアスに移り住んだセプルベダだが、残念なことに、二〇二〇年四月、アストゥリアス初の新型コロナウイルス患者となり、亡くなった。七十歳だった。

 

 

四角い卵

サキ (著),和爾 桃子 (訳)

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 みなさまサキはお好きですか。私は大好きです。定番の新潮文庫「サキ短編集」から、理論社の小学高学年以上向け「サキ 森の少年」まで、サキの短編集はいろいろな種類が出ている。こういうサキの名作選に触れてその短編が持つ魅力の虜になり、「もっと読みたい!」となったそこのあなた。絶対白水Uブックス版に手を出して! エドワード・ゴーリーの挿絵と共にこれまで読めなかったものも含めてサキの短編を読みまくれる至福の時間を約束します。「クローヴィス物語」「けだものと超けだもの」「平和の玩具」「四角い卵」の全四冊。ここではお気に入りの「レディ・アンの沈黙」が読める「四角い卵」を挙げます。

また、白水社の「サキ生誕150年」のサイトは、サキの略歴、日本語で読めるサキ情報などが読めて必見。なんとサキの短編を大阪弁&京都弁に訳したバージョンも読めます。不思議と合ってる…!

www.hakusuisha.co.jp

 

 

ほとんど記憶のない女

リディア・デイヴィス (著),岸本 佐知子 (訳)

 

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 短編小説を書くには、長編小説を書くのとはまた違う筋肉(筋肉?)が必要だと思う。そして掌編小説を書くには、短編小説を書くのとはまた違う筋肉(筋肉!)が必要だと思う。筋肉と言う言葉がしっくりこなければ、感覚と言い換えてもいい。本書に収められているわずか三行の「恋」という掌編を、たとえば長編小説にすることはできるだろう。短編小説にすることはできるだろう。しかしわずか三行の小説として書かれた「恋」を読む体験は、長編小説版、短編小説版を読むのとは、当然ながらまったく違う体験である。三行の「恋」でしか味わえないこの感覚が、まさに私が掌編小説に求めるものだ。

 

 

アレッサンドロ・バリッコ (著),鈴木 昭裕 (訳)

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 アレッサンドロ・バリッコという名前を聞いてもぴんとくる人は少ないかもしれない。「海の上のピアニスト」の作者だと言えばわかってもらえるだろうか? バリッコは「海の上のピアニスト」以外の小説もとても素晴らしい作家だ。中でも「絹」は本当に素晴らしい一冊である。

 一八六一年、美しい絹糸を吐く蚕を求めて日本に旅した男の物語。くりかえしを多用した音楽的な語りが静かに秘めた恋を描いて美しい。フランソワ・ジラール監督、マイケル・ピット主演で二〇〇七年には映画化もされている。

 

 「お気に入りの白水Uブックスを五冊挙げてみる」、いかがでしたでしょうか。皆さんのお気に入りの白水Uブックスは何ですか?(これはけっこう気になる。人気ランキングを作ってみたらどうなるのだろうか)